interviews
医師と話し込めるMRをつくる!
『強いチーム手帳』発売記念
川越満と山本藤光さんが出会った記念すべき対談を完全収録!
(収録:2003年5月)
「これからのビジネスパーソンに必要なこと」
(ゲスト:株式会社コラボプラン代表取締役・山本藤光さん)
今回は、2003年4月9日に発売された「なぜ部下は伸びないのか」(かんき出版)を著した山本藤光さんをお招きし、「これからのビジネスパーソンに必要なこと」についてお話をうかがいました。
山本さんは日本ロシュ在籍中に“名人芸移植プロジェクト”と言われた「SSTプロジェクト」の事務局長として業績の大幅アップを実現しました。この「SSTプロジェクト」はナレッジ・マネジメントのケーススタディとして多くのメディアに取り上げられ、山本さんの元には、医薬品業界に限らず、多くの企業からコンサルティングや講演の依頼が殺到しました。その後、2003年には株式会社コラボプランを設立し、代表取締役に就任されています。
営業不振や人材育成にお悩みの方は、ぜひ、「なぜ部下は伸びないのか」をお読みください。私は年間何十冊も本を読みますが、同書は2003年の“MVB”(Most Valuable Book)です。ちなみに、山本さんの誕生日は私と同じ5月30日です (*^o^*)
それではinterviewを開演します。Are you ready?――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
〜山本さんの“本専用の部屋”を見せていただいた後にインタビューがスタートしました〜川越「日本ロシュは“人財の宝庫”だと感じていましたが、特に山本さんは、『藤光 伸』のペンネームで作品を発表されたりして、医薬品業界の中では珍しい方だと思いました。医薬品業界に入ってから本に興味を持たれたのですか? それとも、元々本に興味があって、たまたま医薬品業界に入られたのですか?」
山本「後者ですね。学生時代は小説を書いていました」
川越「小説ですか!」
山本「『金色の貝』という本を1974年に出しました」
川越「30年ぐらい前ですね」
山本「日本ロシュに入る前から書いていて、入ってからも5、6年は書いていました。それから営業部門に移り、33歳の時に希望してMRになりました」
川越「ちょうど、今の私と同じくらいの時ですね」
山本「MRになるまでは、早く家に帰って来ることができましたから、本を書く時間も読む時間もありましたね。しかし、MRになるとそうはいかない」
川越「そうですよね」
山本「MRから営業所長をしていた33〜43歳までの10年間はブランクがありました。44歳の時に本社に戻れと言われて、学術企画部長になり、そこからまた時間が安定してきて、自分の世界を取り戻しましたね」
川越「『なぜ部下』で一番共感したのは『業績不振の格差が出るのは人災だ』というお話と、『やる気のない人に教育しても無意味だ』というところです。本当にその通りだと思います。しかし、多くの企業はこのことに気付いていません」
山本「『人災だ』というのはちょっと乱暴な言い方かも知れませんが、8割がたは当たっていると思います。優秀な人はどんなチームに入っても優秀なリーダーになり、チームを立て直してそこそこの実績をあげるし、モチベーションが落ちた部下を見事に蘇らせる力がある。それは、その人が持っている個性、あるいはセンスですね。だから私は業績不振の格差は人災だと思っています。ダメな人はどこに行ってもどうにもならないんですよ。私がコンサルティングをやった企業の人たちも『そのとおり』と言います。ただ、人災だということになかなか気がつかないですね。『運が悪かった』で済ませる。1年ぽっきりのモノサシでしか分析をしないから見えてこないのです。実際に『なぜ部下』に書いたように、過去にさかのぼり、4年間くらいをザクっと切って見ると、人災だったことに気がつきます」
川越「どの企業も業績は1年間でリセットされてしまうから、人災だということが浮き彫りにならないんですよね」
山本「そうです。業績は過去までさかのぼらないと駄目ですね。『なぜ部下』を読んでいただいた企業の方は、そのことに気がついて、さかのぼり始めているようです。どこかの時点で企業の“2・6・2”※というのをはっきりさせておく必要があります。最初の2と真ん中の6では、教育の仕方が明らかに違ってきますからね」
※2・6・2の法則:最初の『2』は優秀な2割を、後ろの『2』はぶらさがりと言われる2割を示す。そして真ん中の『6』は平均的な6割の営業担当者となる
川越「本当にそのとおりだと思います」
山本「2・6・2のそれぞれの待遇も本当は違わなければいけません。そういうものを曖昧にしているのが現状です。それから、問題なのは、悪い方の2に対して甘すぎることですね」
川越「そうですね。学習塾では、優秀な人には優秀な教師をつけて、明らかな格差をつけますよね。でも会社に入るとみんな同じ教育をする。不思議ですね」
山本「いわゆる集合教育みたいになってしまっていますよね。あれはすごくナンセンスだと思います。教育の仕方を営業担当者のレベルで分けるだけではなく、最初の2をどうやってチーム活性化のために、あるいは、企業組織全体の活性化のために使うか、というのことが、これからの企業のポイントですよ」
川越「『SSTプロジェクト』では、24名のトップMRの探し方が非常に難しかったのではないでしょうか?」
山本「実は、1回失敗しているのです。最初は現場の支店長に選別してもらったため、“トップMR”は出てきませんでした」
川越「そりゃそうですよね。支店長としては、優秀な人を出すと業績が落ちる!と心配してしまいますからね」
山本「その失敗を糧にして、次は自分たちの目で、トップMRを選ぶことができました。優秀な人というのは、どこへ行っても表彰式の常連になります。まず、このようなメンバーばかりを選びました。その中から、独特の個性で売っている人はスキルを普遍化できないので外しました。それから、家庭の事情で長期の単身赴任が不可能な人を外し、最終的に24人になったのです」
川越「スキルを移植できないけど、優秀な人というのは、一言で言うとどんな感じの人なのですか?」
山本「ようするに、独特の個性で顧客に密着している人ですよ。個性っていうのは、その人の持っている性格的なものもありますが、誰にも負けないフットワークの良さとか、何を頼まれても『はいはい』と、別の顧客を犠牲にしても引き受ける人っているじゃないですか。企業としては歓迎できないけれども、そういうやり方で成果を出す人がいるのです」
川越「天才的に一瞬で好印象を得ることができる人などはどうですか?」
山本「それは除外する必要はないですね」
川越「そういう部分は移植できますか?」
山本「そうですね。働き方、形は移植できますね。かたちとは型と知のことです。普遍化できる型と、知恵を使って付加価値をつけられる知のことですから」
川越「『なぜ部下』には、優秀な人は、どんなにダメなリーダーの下でも良い成績を出しているということがデータで示されていました。あの“事実”は、喜びというか驚きでした」
山本「あれは実話です。どこのデータであるかは書けませんけどね」
川越「どの会社でも、優秀な人は、どんなにダメなリーダーの下でも良い成績を出すものでしょうか?」
山本「まず、間違いなくそうなっていますね」
川越「上司が全然ダメでも、はいはいと返事だけして外に出て自分の仕事をするっていうパターンでしょうね」
山本「まぁ、本当に一握りですけどね。1割いれば良い方だと思います」
川越「そういう人が24人もいたということが、日本ロシュにとって幸せなことだったと思います」
山本「もっといたと思います。探せばいるんですよ、どの会社にも。500人の会社なら50人くらいはいますよ」
川越「山本さんは日本ロシュを離れて、他の会社のコンサルティングを行っていると思います。医薬品業界以外には、どのような企業をコンサルティングされているのですか?」
山本「今は医療機器、生保、製薬の3つの業界をお手伝いしています」
川越「生保は医薬品業界と似ているところがありますよね」
山本「似てますね。なぜ生保をターゲットにしたかというと、生保のライフプランナーというのは、青色申告をしていますよね。独立した個人事業主なのです。研修は、会社が用意するものを、自分たちでお金を払って参加する。だから、意欲が他の業界とは全然違うのです」
川越「そうですね。私が参加している勉強会でも生保の人は目の色が違いますね」
山本「私は、MRは将来、生保のライフプランナーのようになると思っています。だから、生保の人たちを教えながら、私自身が生保のノウハウを学び、いかにそれを医薬品業界の方へ持っていくかということを考えています」
川越「それはすばらしいですね。本当にそういう時代が来ると私も思います。これからはMRの“自立化”が重要なキーワードになりそうです」
山本「そういう時代が絶対来ますね」
川越「しかし、今の製薬企業の教育スタイルでは、自分でお金を出して勉強しようという気にならないと思います。全部企業が用意してくれますからね。これをどのように変えていくかが大きな課題ですね」
山本「もう、終身雇用の時代が終わって、いつ会社が合併するのか倒産するのか、あるいはリストラされるのか分からない時代じゃないですか。そういう時に強いのはやっぱり個人事業主ですよ。知的な基礎体力はMRにはあるし、ライフプランナーのようになれば社会的な認知も高くなるはずです」
川越「確かにMRの知的な基礎体力はすごいと思います。どの病院の先生も、MRさんほど優秀な人はいないっておっしゃっていますよ。病院を取り巻く他の業界の営業職よりもはるかに優秀ですからね。これはやはり教育の賜物でしょうね」
山本「今までは、長時間に渡って均一のMR教育をしてきたわけです。だから、MRが転職すると言ってもMRとして他の製薬企業に移るくらいです。色んな業種でMRという経験を活かして成功する人というのはあまり見かけないんですよ。せいぜい外資系の生保くらいですね」
川越「そうですね。外資の生保には行ってますね」
山本「MRが生保に行くのは、個人事業主としてやるわけですから“ワンランクアップ”だと思っています。一つの企業に寄りかからずに、このような道をそろそろ考えていった方がいいんじゃないかと思いますよ」
川越「『個人事業主としてやりたい!』というMRが何人も出てきてくれると嬉しいですね。先日、イノベックスの方をinterviewさせていただきましたが、コントラクトMRのようなビジネスが流行ると、個人事業主という考え方も結構出てくると思います。これは個人事業主のこととは関係ないかもしれませんが、コントラクトMRの方々が契約先の企業に入ると、そこの支店が活性化するそうです。個人としてどこかに移植すると、その組織が活性化するというのがすごく面白いと思いました」
山本「個人事業主ということではなくても、社外の人と交わることによって社内の価値が高まる時代ですよ。それなのに、会社と運命共同体みたいな社員が多すぎるわけですよ。今、社外の人と交わることによって社内価値が高まる、ということが明らかになっている時代なので、なおさらMRというのは忙しさにかまけて、自分を磨く時間が無いわけじゃないですか。知識は一生懸命磨くんだけど、自分の社内価値を磨くチャンスがなかなか無い。それをやるためには、独立した事業主にならないと、うまくいかないと思いますね」
川越「『なぜ部下』の中に、『苦渋の人』の話が出てきましたね。あれが語呂合わせでうまいなぁと思いました。本当に9層と10層は重要ですよね」
<「苦渋」の人と交われ!>〜「なぜ部下は伸びないのか」から〜〇層:道行く人……道くらいは聞けるが、知的刺激度はゼロである。
一層:社内の顔見知り……おやっと思われるかもしれない。私はここに位置づけていた。
二層:年賀状友達……年一回の思い出の虫干し。少しは刺激がある。
三層:近所の人……会社を辞めて知った。互助精神健在なり。
四層:同窓会メンバー……ビジネスにつながる知的な情報もある。
五層:アフターファイブ仲間……ストレス解消。
六層:社外セミナー参加者……講師を含め、名刺交換がやがて役に立つ。関心事が同一。
七層:メール友達……結構、知的な刺激を受ける。
八層:社内プロジェクト・メンバー……知的なやり取りは刺激的である。
九層:自ら電話をして会う人……知的な刺激が一杯である。
十層:社外研究会または勉強会メンバー山本「そうそうそう」
川越「私は良く社外勉強会に出ますが、MRと会ったことは一度も無いですね。一度もお会いしたことがありません。医療系の勉強会では、有名な病院経営者などに会って話せるチャンスなのに、その病院の担当者すら来ていないんです。たまたま某製薬企業の女性の方が参加されていましたけど、それは『会社がつまらないから友達に誘われて来てみた』という理由でした。営業の現場で活躍している人が出てくることがほとんど無いようです」
山本「この間、私が3回シリーズで開催した研究会も、私は営業リーダーに来てもらいたかったんです。しかし、営業リーダーはいませんでした。彼らは忙しすぎるのかもしれません。自分のための時間が無さ過ぎると感じています」
川越「確かに忙しいですよね。しかし、忙しくても何とか時間を作ってやっていただかないといけと思います。他の業界から取り残されてしまいますからね」
山本「そうそうそう。『私はMRしかできません』という人ばっかりいてもしょうがないですからね」
川越「そうですよね。社外で勉強するMRがどんどん出てきて、そういう人たちがSSTみたいな形で社内の人に知を移植できるようになれば、すばらしいですよね」
――――――――――コーヒーブレイク (*^o^*)―――――――――――――山本「SSTは約2年間の長期プロジェクトでしたが、一番成長したのはSSTのメンバー自身なんですね。だから、あのくらい一つのことを経験させると、自分の頭でものを考えながら前に進むことができるようになります。そうすると価値が高くなりますよね。社内事業に参画してもらい、社内の価値を高めるということです」
川越「実際、自分ができても、人に教えるということはすごく難しいと思います。SSTメンバーの24人の人たちは良くそれができましたね」
山本「24人は一年半の同行始動以前に、2カ月間一緒になってプロジェクトを進めましたからね。2カ月も一緒にいると、“心のすりあわせ”ができるようになってきます。リアルな場でのコミュニケーションよりも、バーチャルの世界で頻繁に彼らはそれをやっています。成功例を電話で話したり、メールで情報交換をしたり。このようなことが頻繁にあるため、歩調が合ってくるのです。一人で考えることには限界がある、ということに気がついて、みんなを巻き込んで、交流をしないことには取り残される、という不安がそれぞれにあるから、あの2カ月の本社研修は有意義でした」
川越「そうでしょうねー。一流の人たちが集まって情報交換するわけですから、これはすごいレベルアップになりますよね」
山本「2日や3日の集合教育では何も変わりませんが、2カ月やれば絶対変わります」
川越「2カ月ですもんね。3日間の研修でも、同じモノに3回くらい出ないと、実際には身につかないと言われていますよね。3日間の研修に出ても、すぐに実践できる人は全体の1割いるかいないかですね」
山本「最近の企業白書を読みました?」
川越「はい」
山本「白書には、企業が集合教育なんてやるべきじゃないと書かれていました。一人ずつの個性にあった、テーラーメイドの指導をしなければいけません。そのために企業に必要なのは、『場』や機会を社員に与えることだ、と。まさにそういう時代ですね」
川越「最近、ロールプレイング教育というものが、増えているようです。しかし、現場に出ても、最初は全く通用しないでしょうね。テーラーメイド教育は重要だと思います」
山本「もう終わりましたが、中小医療機器メーカーの営業マンの新人研修を手伝ったことがあります。それは座学を5日間だけ私がやり、あとは元MRの人に頼んで同行を1カ月やるのです。それでもう立派になりますよ」
川越「はぁ〜! 同行ですか。元MRの方というのは今は何をされているんですか?」
山本「人材派遣から来たので、どんなバックグラウンドで、今何をやっているのか分かりませんが、本当にアッという間に立派になりましたよ。何を言いたいかというと、大きい企業に入ったMRというのは、『10月まで何もやらなくていいや』という感じで貪欲に何かを吸収して、現場につなごうという危機感に欠けます。中小企業の営業マンとの違いがはっきり見えるんですよ」
川越「なるほど。確かにやる気を持って入社しても、11月まで何もできないというのは、モチベーションが下がりますよね」
山本「今の新人研修システムが製薬企業の新人を腑抜けにしていると思うんですよね。アメリカのロシュでは、Aという製品について現場のチームリーダーの責任下で4週間にわたり自分で勉強をさせます。ここで90点を取ったらロールプレイセンターで2週間みっちりロールプレイをやり、帰ってきたらチームリーダーが製品AのOJTを4週間やります。製品AのOJTが始まるのと同時に、製品Bの自習が始まります。この繰り返しをアメリカのロシュは行っているのです」
川越「あれはすばらしいシステムですよね」
山本「これが望ましい世界ですよ。中小企業の新人の緊迫感は、まさにあの世界です」
川越「中小企業の新人営業マンに同行した、元MRの方もすごいですね。1カ月同行して、立派な営業マンに育てるなんて」
山本「ただ、病院のルールとかを教えて歩くだけなのです。顧客である先生とは顔見知りでもなんでもありません。ただ一緒に歩いて、方向をちょっと指示してあげるだけ。それだけでも、本人達のやる気がすごいから上手くいきます。教えるではなく、育てる方に力点があるわけです」
川越「はぁ〜」
山本「私がイメージしたのは、アメリカのロシュのトレーニングでした。あの世界を新人にやってみたら、案の定、非常にうまく動きましたね」
川越「その医療機器の会社は、何人くらいを対象にされたんですか?」
山本「新人が2人と、営業マンが全部で11か12人くらいかな」
川越「小規模でできるコンサルティング、という感じですね」
山本「そうですね」
川越「小さい会社でもスタートできるし、教える人は人材派遣から来てもらうわけですか。すごい良いシステムですね」
山本「今は『フリーエージェントの時代』ですよ。企業を動かしているのは、フリーエージェントの集まりなのです。ですから、大手のコンサルタント会社からしょっちゅう『手伝ってくれ』と頼まれます。つまり、企業の人がモノを考える必要はなく、SSTみたいなすごいメンバーがクライアント先に行く、という時代ですね。企業もしっかりしないと、企業内のプロジェクトを作ったって何も成功しませんし、今までも社内のプロジェクトにコンサルを入れて成功したという例はほとんど無いわけですからね」
川越「無いですね。時間とお金がかかるわりには」
山本「これからの時代は、どんどん成功例が出てくると思いますよ。なぜかというと、優秀な人がどんどん飛び出して、プロジェクトに参画してくるからです」
川越「コンサルの中でも『この一部分だけお願いします』という形でですね」
山本「そうそう」
川越「フリーエージェントが増えていくと、本当に超一流のプロジェクトになりますね」
山本「私はいろいろと企画を持っていますが、忙しくてその企画を“DO”に移すことができません。今、“コラボDO”という企画が動いていますが、そこには、アッと驚くような企業の人財が土曜日に集まり、私の企画を実行プランに落とし込む方法を無償で考えてくれています。プランが完成したら、それを企業に委託するわけですよ。そこからあがった報酬はみんなで分けるのです」
川越「必殺仕事人みたいですね(笑)。おもしろいですね〜。そういう若い人たちが集まるきっかけになったのが、前作の『「暗黙知」の共有化が売る力を伸ばす』(プレジデント社)ですか」
山本「同じような考えを持った、前向きな若者ってたくさんいるんですよ。彼らは“社内”という垣根を乗り越えた瞬間に、『ものすごい人が世の中にこんなにいるのか』ということに気がついて、自然に集まってくるようになるんですよ」
川越「私もさまざまな勉強会に出ていますが、年齢にかかわらず、『この人はすごい人だなぁ』という人に最近は何人も会っています」
山本「いや、本当に驚くほどすごい人はいますね」川越「『なぜ部下』でいいなぁと思ったのは、コーチングのエッセンスが盛り込まれていたことです。セルフチェックの部分は、特にコーチングのテクニックを感じました。山本さんはいつ頃からコーチングの勉強をされたんですか?」
山本「勉強はしたこと無いですね」
川越「では、自然に?」
山本「ナレッジ・マネジメントも勉強したこと無いですよ。全部後付けです。後付けというのは、『それ、コーチングの手法ですよ』と言われて、『そうなの? じゃあ、書くわ』といって書くだけで(笑)」
川越「それは驚きました」
山本「コーチングやファシリテーションなんて、昔からありましたよ。それが偉そうにカタカナ用語になっているだけですよ。私の本には難しい言葉は全然出てきません。野中郁次郎先生が『これは暗黙知って言うんだよ』と教えてくれ、『あぁ、そうなんですかー』という感じです」
川越「野中郁次郎先生と出会ったキッカケは?」
山本「どこかの記事を見て、取材に来られました」
川越「へぇ、取材にいらしたんですか」
山本「そうです。それで、野中先生の最初の一言が『これは世界で初めての暗黙知から暗黙知への移転だ!』でした。何のことやら最初は分からなかったのですが、それを言われて「あー、そうなのか」と思いましたよ。野中先生とはそれからのお付き合いで、本の推薦文まで書いていただきました。SSTプロジェクトは野中先生にとって、ナレッジ・マネジメントの格好の実例だったのでしょう」
川越「そうでしょうね。『なぜ部下』にも書いてありましたけど、『愛の貧乏脱出大作戦』というのはすごく分かりやすいですね」
※『なぜ部下』の116ページをお読みください
山本「でしょう!」
川越「野中先生の本の中で書かれていた『SECIプロセス』を見ても実感がわきませんでした。何となく分かるけど、人には説明できない、という理解度でした。しかし、『なぜ部下』を読んで「そういうことだったのかぁ〜」と思いましたね。本の中で比喩表現やたとえ話がタイミング良く出てくるのは、山本さんの読書量が背景にあるのでしょうね。ホームページの書評を見て分かりました」
山本「私が本格的に勉強し始めたのは43歳の時なのです」
川越「それは何かキッカケがあったんですか?」
山本「あったんですよ。私が尊敬している人が定年になった途端に、空気が抜けた風船みたいになってしまったのです。私は『こうなっちゃいけない』と思いました。でも、このままだと10数年後にはこの人のようになると思いました。その時、『一番知的な日曜日を作るための道具は本だろう』と思って読み始めたのです。それまで仕事一辺倒で、社外の人と混じると言えば顧客しかいませんでした。そのため、とりあえず読書ということしか思い浮かびませんでした。でも、一カ月に10冊はなかなか読めないんですよ。それで、少しずつ時間を前倒しして、朝3時に起きるようになるわけですよ。そうすると、本を読めるようになってくる。読めるようになってくると、本の感想を発信したくなってきました。発信すると、その価値がだんだんわかってくるんですよ。発信した書評は200を超えています」
川越「はぁ〜。なるほど」
山本「とにかく、何かを発信しようじゃないかと。発信するためには蓄えないといけないし、他の人とも交わらないといけないし、発信するというのは徹底的に自分を磨かないと発信できないから」
川越「本当にそのとおりですね」
山本「43歳で本を読むようになって、書評を書くようになり、そのうちにそれを見てくれる人が出てきました。『連載を書かないか』とか『本を書いてみないか』と言われるようになり、色んな人から『会おう』という連絡が来ました。43歳から世界が広がり、充実してきましたね」
川越「一気に人が変わってしまったようなものですね」
山本「完全に変わりましたね。おそらく努力してない人には、そのような世界を味わうことは絶対にないでしょう」
川越「私も知り合いだけにしか教えていない『裏友リターンズ』というホームページを持っていますが、たしかに情報を発信していると、協力してくれる人が増えました。人を紹介してくれたり、講演を頼まれたりとか」
山本「そうでしょう!」
川越「発信するメリットは大きいですね」山本「実は、『なぜ部下』を読んだ営業マンの人が、私が書いた文章の下に、会社における今の現状をずらーっと書いてきてくれたんですよ」
川越「はぁ〜」
山本「前半部分を書いてくれて、あとの後半はもう一回自分に照らし合わせて会社に提言したいそうです。商社の平社員の方でしたが嬉しかったですよ」
川越「本を出すと、いろいろと反応がきますね」
山本「いろんなものが出てきますね」
川越「『「暗黙知」の共有化が売る力を伸ばす』の時も、反応が多かったそうですね?」
山本「『「暗黙知」の共有化が売る力を伸ばす』は、企業からの反応がすごかったです。『良くこんなものを出させてくれたな』という反響が一番大きかったですね」
川越「もろ生データですもんね」
山本「繁田会長も小川社長も『いいよ、それくらい!』っていう会社だったから」川越「先程の『苦渋の人』は成功法則の一つだと思いましたが、『事前に日報を書く』(153ページ)という話。あれは、まさに成功法則を取り入れているなと感じました」
山本「『山本メモリアル病院』(150ページ)のアイデアも同じ様な考え方から来ています。ターゲティング像を学問で教えても誰も理解できません。それを、個々のMRが病院を経営したつもりになって、近隣の優良顧客(開業医)を抽出し、それを一つの病院内の内科、外科、産婦人科――のように想定すると、自分だけの病院ができあがります。つまり一つひとつは小さいのですが、それをまとめると基幹病院並になります。こんな感じで、どこかに遊び感覚が無いと、うまく行かないんですよ。私は指導の中に必ず遊びの感覚を入れますね。仕事以外の交わりにも、その感覚は常にあります。だから、10数社・20数名で行っているKEN研(ナレッジ・エンジョイ・ネットワーク)では、“ナレッジライブ”というのをやるんです」
川越「ナレッジライブとは、どういうものなんですか?」
山本「外へ出かけて行き、自分達がこれまで研究してきたことを、外部の人に提供し、受けるかどうかを見るのです」
川越「具体的には?」
山本「第1回目は日本一のレタスを作っている長野のレタス村へ行って、そこの農家の人たちとディスカッションをしたいと考えています。レタス栽培に、我々の今までの知は無力なのかどうか」
川越「それはすごいですね! なぜレタスなんですか?」
山本「いや、たまたまですよ。キューピーマヨネーズの人がKEN研に入っていて、『お世話になったレタス村というのがある』というので、じゃあそれやろうっていうノリですね。それから、KEN研のメルマガを発行する予定です。自分たちの知を不特定多数の人に広げるつもりです。色んな企画が動いていますよ」
川越「何だかマヨネーズをレタスにつけて食べたくなりましたが、メルマガはぜひ読みたいですね。色んな遊びとうか、仕掛けと言うか、山本さんの本をきっかけに色んなことが動き出そうとしていますね」
山本「そうですね。何かしてないと、人は集まって来ないですからね」川越「最後に医薬品業界へのメッセージをお願いします」
山本「私が今の製薬企業に欠けていると思うのは、若いリーダーが踊り出てくる機会がなく、経営者として若い人が出てくることが少ない世界だと言うことです。同時に、実践リーダーみたいな形で、異業種のビジネスマンの中で、何かを語る人も少ない。囲いの中にいて、ぬくぬくとやっていた時代をそのまま受け継いでいるわけですよ。でも、もうそんな時代ではないので、そろそろオピニオンリーダーがどんどん出てきて、医薬品業界からさまざまな発信ができるようなシステムになれば良いな、と思うんですよ」
川越「不思議なのは、医薬品業界のベテランの方たちは、金太郎飴みたいなMRを作る教育システムでやっていながら、『最近の若者は個性のない人が多い』と言うんですよね」
山本「それから、医薬品業界の人は交わって来ないんですよ。KEN研なんて、トヨタ自動車や富士ゼロックス、NTTデータなどからも来るんですよ。医薬品業界の人たちは、もっと外の空気に触れるべきですよ。ぬるま湯だから出たがらないのかな」
川越「必要性を感じていないのだと思いますよ。でも、SST自体は他社でも導入されていますよね」
山本「もう、数え切れないほど他の企業に説明しに行きました。実際に動いているのもあるし、それを取り入れながら自社でやっているところもあります。医薬品卸は製薬企業より熱心ですよ」
川越「医薬品卸の方が競争が激しいし、危機感があるんでしょうね。たいていの人は危機感を感じるまでは動きませんから。今日は本当にありがとうございました」
(“コンサナリスト”川越満)