医薬品企業の調剤市場戦略
医薬経済社「医薬経済」2003年1月1日号掲載
2002年11月30日、都内で個人投資家を対象とした会社説明会が開催された。そこに登場したのは、総合メディカル株式会社の小山田浩定社長だ。主力の調剤薬局事業について小山田社長は、「今の分業率は50%弱。70%まで伸びるから、市場はまだまだ拡大する」との見方を示した。しかし、同説明会の参考資料として参加者に配付された11月29日付の日経金融新聞には、「クラフト23%減益−9月中間経常 診療報酬改定響く−」というタイトルが踊っていた。参加者の多くはこのコントラストに困惑したに違いない。
2002〜2003年の改正健保法は、医療経営と調剤薬局経営に“ビジネス化”をもたらす。1995年頃に「医療はサービス業」という言葉が流行ったが、これからは「医療はビジネス」である。通常のビジネス界のように、何も努力をしなければ3〜5割の顧客が消えることになる。ユート・ブレーンの調査によると、診療報酬改定後に、約4分の1の医師が処方内容を変更したと答えている。その最も多い変更内容は「投与日数」である。
これを裏付けるかのように、処方せん1枚当たりの金額がもの凄い勢いで上昇している。日本薬剤師会によると、2002年8月分の1枚当たり金額は6038円にも達している。この10年間に消費者物価指数は10%程度しか上昇していないのに、処方せん1枚当たりの金額は2.2倍に急騰している。まさに“処方せんバブル”である。“絵に描いた餅”と揶揄された日本薬剤師会の「薬局のグランドデザイン」(1997年)でさえも、21世紀初頭の、処方せん1枚当たりの金額を3600円と見込んでいたのだから、いかに予想をはるかに超えるペースで処方せんバブルが進展してきたかがうかがえる。
経営が厳しいと言われながらも、大手チェーンは出店を続けている。冒頭で紹介した総合メディカルは、2002年度中に36店舗の新規出店を計画している。長期処方が拡大すれば、「処方せん枚数に合わせて薬剤師数を調整するなどの工夫はできる」とある薬局経営者は話している。
2002年6月に、処方せん枚数の伸び率が対前年同月比で0.9%増と、市場の成長に急ブレーキがかかった感があるが、経営者がしっかりとしている薬局はまだまだ安泰である。しかし、棚からぼた餅が落ちるのを待っているような経営をしている薬局に未来はなく、処方せんバブルが崩壊しかねない。
■“経営者”不在の薬局は切れ!
総合メディカルの企業理念は、「よい医療は、よい経営から」である。これを調剤薬局に当てはめれば、「よいファーマシューティカル・ケアはよい経営から」となるだろう。
その調剤部門の経営に関しては、業態別によって取るべき戦略が異なってくる。今後、数年間の経営の方向性と患者の動向について業態別に見てみよう。
<業態別薬局経営の近未来>
業態別 3〜5年後の経営の方向性 患者の動向個店 薬剤料で逆ざやになる可能性が高く、指導管理料をどれだけ算定していけるかがカギ。後は患者を増やすことが重要になるが、専門性がなければ他の業態に勝てない。 地域住民の人口構造による 複数店舗チェーン すでに完全分業を実施している病院の門前薬局の成長は見込めない。病院薬剤師との連携(薬薬連携)などで関係者・患者からの信頼を得ながら、薬局の移転(患者に近づく)などを模索することになる。在宅部門の強化も課題。 病院の外来部門抑制の影響を受ければ、患者は減少 専業グループ 指導管理料の強化が課題だが、外来患者を抑制する大病院の門前薬局は撤退を余儀なくされる。カウンセリング強化のための店舗の改装や、調剤部門以外の売上増がなければ、制度改革の波を乗り切れない。 長期投薬が標準化されると、累計患者数の減少は避けられない ドラッグストア調剤部門 ドラッグストアの客層と処方せんを持ってくる患者層に違いが大きいと厳しい。あまり期待しない方が無難ではないか。 1店舗当たりは「横這い」 スーパー調剤部門 ドラッグストアと違い、患者との年齢層がマッチする。医食同源を実現できる業態であり、21世紀における面分業の担い手になる可能性が高い。 魅力のある調剤コーナーのみを利用する 請求薬局数は4万1614軒(2002年8月現在)に達している。すべての薬局に同じような対応をしていては、MRは何人いても足りない。だから、
ステップ1:顧客を業態別に振り分ける
ステップ2:業態別に“打つべき手”をちゃんと打っているか確認する
ステップ3:棚からぼた餅を待っている薬局は消える可能性が高いので、最低限の対応にとどめる
という3ステップで各調剤薬局を格付けし、資源の有効な活用を図るべきである。
複数店舗チェーンや専業グループは、保険収入だけに頼っていては、今後の診療(調剤)報酬改定の内容に耐えられない。今後は、「調剤は見込み客を集める手段である」というような発想の転換が必要だ。調剤で集めた顧客に何を売るか?それを考えるのが調剤薬局の経営者である。
前出の「業態別薬局経営の近未来」の表に加え、調剤薬局のターゲティングを行う際には、次の「調剤薬局経営10の悩み」を参考にして欲しい。
<調剤薬局経営10の悩み>
(1)調剤報酬マイナス改定による収入減
(2)薬価改定による収入減
(3)薬剤師の採用難
(4)調剤業務の拡大に対応した教育体制の不備
(5)経営管理の強化(経費見直し、在庫管理等)
(6)財務管理(借入金見直し、資金繰り)
(7)業務効率のためのIT化の遅れ
(8)出店競争の激化
(9)患者自己負担の増加
(10)後発医薬品の増加(処方せん単価の減少)
この10の悩みに対して、各薬局がどれくらいの影響を受けているかということについて、MRとMSが情報交換しながら探っておくと良い。■調剤市場担当者の役割とは?
今、製薬企業の調剤市場担当者は、辛い立場に立たされているのではないだろうか?どんなに努力しても、「それを実施すればどれくらい売上が上がるの?」という問いに答える術がない。現場のMRからは「なぜ処方権のない調剤薬局に訪問しなければならないのか?」とつつかれる。
しかし、医薬品市場の3分の1が調剤市場に流れている現実を放置し、調剤薬局施策を怠けていれば、長期的に見れば痛い目に遭うことになる。
藤沢市薬剤師会常任理事の初鹿野美貴子氏は、12月7日に行われた湘南ヘルスケアネットワーク21協議会(会長:大久保一郎・筑波大学社会医学系教授)の中で、「どのようにすれば患者が薬を飲みやすいか考えている」と発言し、その手法についていくつか説明した。
具体的には、次のような活動をしているという。
◆2カ所の医療機関から処方されている患者には、医師の名前を袋に書き、服用時も分かるようにした
◆嚥下困難な薬を勝手に紛砕している患者には、紛砕して良い薬と悪い薬があることを説明し、薬の変更を提案。コンプライアンスの向上を実現
◆意味を理解して服用していれば、「**の症状はなくなった」という場合に、薬を減らすこともできると説明
◆残薬のチェックも欠かさない。医師は全て服用して今の状態だと考えているため、服用しない原因を突き止め、処方変更などを医師に依頼
◆成分栄養剤や麻薬に関しては、患者の状態を把握した上で、医師に品目を提案
製薬企業側が発売前に予想もしていなかった、患者から見た製品のメリット・デメリットが薬局の現場で浮き彫りになっている。デメリット情報の収集は売上減を挽回するチャンスになるし、メリット情報の収集は、薬剤師だけでなく医師に対する最高のセールストークになり得る。
このような情報収集機能の構築を、製薬企業の調剤市場担当者は担うべきである。そして、「なぜ処方権のない調剤薬局に訪問しなければならないのか?」という疑問を持つようなMRは解雇した方がいい。患者志向が必要不可欠な製薬企業の一員として相応しくないからだ。各製薬企業は、倫理教育に力を入れているが、教育よりも採用の時点で倫理力の低い人材を弾く必要がある。倫理力の低い人材に教育しても時間とお金の無駄になるだけである。
その点、顧客満足経営として有名なザ・リッツ・カールトン大阪は、採用にもの凄いエネルギーを使っている。「お客様のことが気になって仕方がない」、「お迎えするに当たって何か特別なことができないか」という気持ちを持つことは、教育だけでは不可能、素質が重要だと考えているからだ。
「いきなり組織は変えられない」と言われるかもしれない。その場合は、調剤市場担当者が、主要調剤チェーンとビジネスの話をすることからスタートして欲しい。すなわち、「情報面のサポートをさせていただく代わりに、情報をください」と交渉することである。
不思議なことに、MRをはじめ多くの製薬企業(医薬品卸も含む)の方たちは、医療従事者に情報を提供することに比重を置きすぎて、収集することを忘れているように思える。コミュニケーションとは、“情報のやりとり”だと言うことを忘れてはならない。情報を“やったら取る” “やったら取る”――これを繰り返さなければコミュニケーションとは言えない。
したがって、調剤チェーンに対して情報面でサポートする代わりに、こちらが欲しい情報(製品に関する医療従事者や患者の声など)をいただくのである。“やったらもらう”これはビジネスのマナーである。(“コンサナリスト”川越満)