「Rを服用している患者の自殺率は非常に高いらしい」
「Rを処方してもらう方法教えます!」
自称・薬物依存症の女性から教えてもらったホームページを覗いてみたところ、精神病薬の“独自評価”が紹介されていた。患者は不思議なもので、医療従事者よりも同じ疾患を持つ患者からの情報を信用することが多い。そのため、患者会などの団体が患者をサポートすることは、非常に重要になってきている。
筆者は先日、(財)全国精神障害者家族会連合会を取材したが、製薬企業に対する“きちんとした医薬品情報の提供”のニーズが非常に高いことを実感した。ここで言う医薬品情報の提供とは、患者に対するものだけではなく、医師に対するものも含まれる。つまり、医師にちゃんと薬の使い方を教育してほしいというわけだ。
製薬企業は、今後、医薬品情報提供の“ストーリーづくり”が求められてくる。そのためには、患者とのコミュニケーションを図りながら、医師・薬剤師への情報提供の切り口をアレンジする必要がある。<7つ眼:患者を見る眼>
幸運なMRは患者との“真実の瞬間”を経験することがある。壁のシミだったCさんは、ある日医師から「こういう患者がいるのだが、君の製品は使えるか?」といった相談を受けた。その日から真剣に1人の患者のために、医師とタッグを組んで薬物療法を模索した。努力のかいがあって、患者は退院することになった。その患者が退院する時、Cさんは医師に呼ばれた。「あなたが退院できたのは、この人(MRさん)のおかげですよ」――この日からCさんのMR活動は劇的に変化した。患者志向という概念が、全身にインストールされたからだ。
筆者は新刊「制度知識で他社MRに差をつける33のQ&A」の中で、勝ち残るMRになるための“4つの条件”を提示した。
条件1:施設ターゲティングに優れている
条件2:病診連携マーケティングに優れている
条件3:薬局(患者含む)マーケティングに優れている
条件4:コミュニケーションスキルに優れている
1、2、4についてはこの連載で解説してきたが、条件3に含まれる患者マーケティングは、今回のテーマのことを指している。
製薬企業はよく患者向けのシンポジウムを開催している。例えば、2003年9月13日には、くすりの適正使用協議会がシンポジウムを開催し、“バカの壁”で有名な養老孟司さんが「21世紀の医療」をテーマに講演する。おそらく、多くの患者が会場に集まることになろう。
しかし、その中にMRが何人いるだろうか? 純粋にシンポジウムに参加するMRは皆無かもしれない。シンポジウムでの患者との出会いは、Cさんの“真実の瞬間”には及ばないが、MR活動に役立つ“気づき”が得られるはずだ。どんどん参加してほしい。
疾患別のシンポジウムでは、生々しい相談が患者から打ち明けられたり、シンポジストから医療現場の実態が明らかにされることが多い。このような現場を知ることは非常に重要だ。受診抑制やノンコンプライアンスの理由がわかることも少なくない。これまで以上に患者の存在を意識しながらMR活動をすれば、必ず結果がついてくる。
最近の報道によると、3割強の患者に残薬があり、残薬の対処については、3分の2の患者が自宅にそのまま置いてあり、残りの3分の1の患者が薬を捨てている実態が浮き彫りになった。
短期的に見れば、この問題にメスを入れることは、製薬企業にとってヤブヘビになると思われるかもしれない。しかし、飲んでいないということは、次の受診の遅れにもつながり、死ななくて良い患者が死んでしまうことにもなる。寿命80歳の人がノンコンプライアンスが原因で50歳で亡くなった場合、30年分の売上が失われることになるのだ。
ノンコンプライアンスは、患者や医師に適切な情報提供が行われていない証である。■患者情報をMR活動に活かす
これは本社の戦略になるが、患者に自社製品について、肯定的な口コミをしてもらう必要がある。冒頭のような否定的な口コミをされたら最悪だ。どのような情報提供をすれば、患者の記憶に“刺さる”のか?――このような質問を患者会や家族会に投げかけてみてはどうだろう。
最近では、多くの製薬企業が“DTCもどき”広告に莫大な資金を投入している。中には、ちゃんとマーケティング調査をしたのか疑問を感じる内容もある。
たとえ本社が動かなくても、患者会は全国に存在するし、手紙やメールを用いて、MR個人がアプローチすることも可能だ。北京の蝶々(「北京で1羽の蝶々が羽ばたくと、ニューヨークでハリケーンが起こる」という不確実性の理論)ではないが、一人のMRの取り組みが会社全体を動かすことになるかもしれない。
患者に聞くべき内容は、自社製品、他社製品に対する率直な意見や要望だ。「自己負担額が高い」「副作用が強い」「飲みづらい」「こんなことがあった」「あんなことがあった」――など、なかには辛辣な意見をぶつけられるかもしれない。だから、ヒアリングする時は、「得た情報を医師や薬剤師にどのようにアウトプットするか?」ということを念頭に置きながら行ってほしい。アウトプットを意識してインプットする。このことを常に心がけてほしい。これは日々の勉強にも言えることである。
このような活動を行うことにより、市販後の否定的な口コミを最小限にとどめることができる。否定的な意見を聞き、それを解決するためには、医師や薬剤師からどのような言葉を患者に伝えてもらえば良いのか?――このようなストーリーづくりが、患者が情報を握っている時代には必要である。これで「7つの眼」の簡単な説明をすべて終えた。「7つの眼」それぞれの眼の共通するメッセージは、「あなたの商品を必要とする人に適切に情報を提供できれば、相手は必ず買う」ということである。もし、適切な情報提供をしても相手が購入してくれないのであれば、それは、ターゲティングが間違っているか、顧客があなたのことを嫌いだということだ。逆に、ターゲティングが間違っていなければ、情報提供の質が悪い(あなたの商品を使って得られるメリットがイメージできない)のである。これは非常に重要なことなので、常に忘れないでいてほしい。
(“コンサナリスト”川越満)