「MRは得意先の経営状況のことを全く考えてない」――これは大手医薬品卸の営業所長の愚痴である。医療制度や得意先の経営状況を知らずに活動をするMRは、顧客の資産状況・経済状況を知らずに、金融商品を提案するファイナンシャル・プランナーと同じであることを認識してほしい。包括化の拡大、医療機関のマネジメント力の強化により、医師の処方権が急速に減少している今こそ、MRはコンサルティング力を向上させなければならない。
<4つ眼:経営を見る眼>
冒頭の営業所長の愚痴の背景には、MSが売掛金滞留月数を頭に入れながら活動していることがある。債権管理の問題が増殖を続ける中、医薬品卸は取引先の選別をせざるを得ない。ノン気なMRは他人事のように、“要注意先”を訪問し、ディテーリングをする。
MRが“営業”であるかどうかの議論は別として、ちゃんとMSが回収するまでのことを考えなければ、当該MR、ひいてはそのMRが属する企業に対するロイヤルティ(忠誠心)は極めてゼロに近くなる。
2つ眼の「顧客を見る眼」と4つ眼の「経営を見る眼」の違いは、前者が“表に出ている情報から読みとれるもの”であるのに対し、後者は“表に出てこない情報から読みとるもの”であるということだ。つまり、4つ眼を身につけるためには、得意先の経営状況を知る努力をしなければならない。もちろん、MR一人では難しいので、上司やMSにサポートしてもらう必要がある。
このような活動に慣れてくると、得意先の経営者、事務方の気持ちが理解できるようになるため、「薬剤費(使用)の考え方」も自然と身に付くはずだ。■収入=患者数×単価
医療機関、調剤薬局の収入はすべて「患者数×単価」で導き出される。医療界の雇用環境は、全体の状況と正反対(医師・薬剤師等の有効求人倍率は、全体の6倍強)となっており、さらに、職員の組織に対する忠誠心も低いため、経営が苦しくても給料を上げざるを得ないところが多い。そのため、常に“増収増益”を目指さなければならない。
しかし、診療報酬のマイナス改定が現実となった今、単価を上げるには、“厚生労働省が推奨する理想の施設”にならなければならない。これを実現することは本当に難しい。病床のダウンサイジング、平均在院日数の短縮など職員の反発が避けられない改革を実施することになるからだ。
単価を上げても、患者数が減っては元も子もない。マーケット分析、競合・味方分析、ポジショニングなどを誤ると、悲惨な結果になる。
周知のとおり、第4次医療法改正により病床区分の届出が2003年8月末に迫っている。経営の「基本構想」がない施設は、急かされて判断を誤る可能性が高くなる。最低でも3C+SWOT分析を行っているかどうかは確認しておきたい。■入るをはかりて出るを制す
収入の次は、費用の分析も必要だ。「収益分析アプローチ図」のように、医業原価率、一般管理費比率、医業外費用――という3つの角度から費用をみなければならない。
このうち、最も厳しいメスが入るのが医業原価率である。特に、DPCといった大型の包括点数が入ってくると、コストは徹底的に見直される。このような情報は、事務方や薬局長などから得ておきたい。
「発泡酒は絶対に出さない」と言っていたアサヒビールが、今では2種類も発泡酒を発売している。「うちは絶対に後発医薬品は使用しない」と言う病院でも、環境が変われば考えも変わるはずなので、頻繁に情報交換をしておきたい。
たとえ、自社の製品が後発医薬品に切り替わってしまっても、あきらめてはいけない。医師や薬剤師などに薬剤変更後の問題点を浮き彫りにしてもらい、“復活”のシナリオを描いてほしい。■バランス・スコアカードを意識せよ
何か新しいことをする時に陥ってしまうのは、“部分最適の罠”である。患者満足というキーワードが誌面を賑わせた時は、患者を「患者様」と呼び、「職員教育が重要だ」と言われれば教育にお金を投資する。しかし、このような部分最適の対応では、効果の持続性は期待できない。一つの問題を解決するだけで良くなる組織はない。ゴキブリを1匹見つけたら、その家には30匹のゴキブリがいると言われている。個々の問題だけを解決するのは、大きな家の片隅に「ゴキブリホイホイ」を置くようなものである。
業績が順調な時は、すべてのことがうまく行く。能力の低い人材は付いて行けずに辞めるし、残る人材のモチベーションは高い。しかし、21世紀に入り、多くの組織が停滞している。能力の高い人材が辞め、残る人材のモチベーションを高くキープするのは困難になっている。このような時代には、部分最適ではなく、“全体最適”のマネジメント手法が必要になる。
「バランス・スコアカード」(BSC:Balanced Scorecard)は、1990年代に生まれた戦略マネジメント・システムであり、全体最適を実現する。BSCとは、ビジョンと戦略を中心として、4つの視点(顧客の視点、財務の視点、人材の視点、業務プロセスの視点)を取り入れて現状を分析した上で、目標づくりをしていくマネジメント手法である。
4つの視点のそれぞれに「重要成功要因」をいくつか挙げ、戦略目標数値を設定する。財務的視点では、部門別管理が求められるし、業務プロセスの視点では、平均在院日数の短縮や紹介率の向上などが挙げられるだろう。MRが得意先を見る際には、ここで挙げられている4つの視点を意識していただきたい。
(“コンサナリスト”川越満)