“2003年問題”――巷では、都心のオフィスビル市況が今年から急速に悪化することが予想されている。理由は言うまでもなく、丸の内、汐留、六本木などに次々と現れる高層オフィスビルの新築ラッシュである。景気がさらに悪化すれば、オフィスビルの空室率は二桁に達すると噂されている。1年間のフリーレント(賃料免除)という契約まで出てきているそうだ。
需要の伸び以上に供給が増えれば、価格は下がる。これは経済学の基本だ。このことはオフィスビル戦争の話題だけに限らない。現在、出口の見えないデフレ経済の元凶が、“オーバーカンパニー”にあることについて、多くのエコノミストの意見は一致している。しかし、延命装置を外せば、多くの失業者が発生することが明白なため、誰も手を出すことができない。
このように、日本経済全体を見れば、成熟化した時の“供給過剰”ほど残酷な結末を見るものはないことが分かる。しかし、医療・医薬品業界では、その“供給過剰”があちこちで見られる。病院、診療所、薬局、そしてMR…。この中から、今回はMRに的を絞り、“2003年問題”以降に生き残るために必要な能力についてまとめてみたい。■MRに求められる“7つの眼”
筆者は今年、MRに対して“7つの眼”を持つことを提言したい。
<MRに求められる“7つの眼”>
1つ眼:変化を読む眼
環境変化が経済・医療・地域・顧客・自社・自分にどのような変化をもたらすのか?
2つ眼:顧客を見る眼
顧客のニーズ・ポテンシャルを正確に把握し、将来性を把握しているか?
3つ眼:顧客の感情を読む眼
自分の話を聴く状態になっているか?顧客とのコミュニケーションの状態は良好か?
4つ眼:経営を見る眼
顧客の経営状態はどうか?患者は増えているか?
5つ眼:相乗効果を予測する眼
A病院とB診療所を連携させたら、どのような効果が得られるか?
6つ眼:違いを見る眼
繁盛している(または自社製品の扱いが増えている)顧客は、他施設と何が違うのか?
7つ眼:患者を見る眼
MRがどんなに努力しても、患者の一言で製剤は切り替わる。患者ニーズを把握する努力をしているか?
これを製薬企業に勤務している方に見せたところ、「私がMRの時は、『3つ眼』しか持っていませんでした」というメールをいただいた。
数年前までは、「3つ眼」だけで十分だった。国民医療費と医薬品市場は順調に伸び続け、診療報酬体系は出来高払い、老人患者の負担は定額(低額)だった。薬をたくさん使うことで困る人はどこにもいなかった。患者は「薬をたくさんくれる医者は親切な医者」だと錯覚していた。
しかし、時代は変わった。日本経済は成長力に急ブレーキがかかり、それに伴い国民医療費抑制策が打ち出された。診療報酬の出来高払いは徐々に定額払いに変わり、老人患者の負担には定率負担が導入された。医師を頂点にしたヒエラルキーがひっくり返され、患者がヒエラルキーの頂点に立った。
患者がヒエラルキーの頂点に立つと、「3つ眼」だけでは不十分となり、“7つの眼”すべてが求められるようになる。ボスである患者の考え方・行動を無視した企業活動が不可能になったからである。■知識の伝達から“考え方”の教育へ
これからのMR・MS教育は、知識の伝達だけでは不十分である。ドッグイヤーと言われる今日では、過去に成功した知識を伝達しても、環境変化に対応できる人材は育たない。知識ではなく、“考え方”を教育しなければならない時代であることを認識してほしい。多摩大学の田坂広志教授は、「これからの時代においては、人材とは、人間が『育てる』ものではなく、自然に『育つ』ものとなっていく」と述べているが、“考え方”を教えることが、MR・MSの自立に役立つと筆者は考えている。
これから数回に分けて詳細する“7つの眼”は、まさに考え方そのものである。まずは、“1つ眼”から見てみよう。
<1つ眼:変化を読む眼>
これまでのプロダクトマネージャー(PM)の頭の中は、製品とマーケティングの知識に占拠されていた。しかし、一部の“敏感な”製薬企業では、PMに医療行政の知識を学ばせる試みを始めている。
環境の変化は製品の販売量に大きな影響を及ぼす。もし、規制がなかったらチャイルドシートを購入する人がどれくらいいるだろうか? 規制ができたからドライバーはチャイルドシートを購入するのである。もし、完璧なオレンジブック(筆者の感触では、現行のオレンジブックは現場の薬剤師にほとんど評価されていない)が作成され、医療機関、薬局、患者の3者に先発品よりも後発品のメリットがあった場合、先発品のシェアはどれくらい落ちるだろうか?――このようなことまでPMは関連部署とディスカッションする必要がある。
2003年4月のサラリーマンの2→3割の負担増だけを見ても、史上初と言ったら言い過ぎかもしれないが、OTCよりも医療機関にかかる方(診療代の負担なども含む)が明らかに高くなる。
順番が前後するが、2002年10月の老人患者の負担増(負担が減った患者もいる)では、有名病院の泌尿器科医から「前立腺癌患者の1割が11月になって通院しなくなった」という話を耳にした。理由は、「薬代(LH-RHアゴニスト)が高くて定率負担では払えないから」である。
これらの改正健保法絡みの影響を見ただけでも、製品とマーケティングの知識だけではPMは務まらないことが分かる。
しかし、PMが環境変化に詳しくなるだけでは不十分だ。現場のMRに「環境変化が経済・医療・地域・顧客・自社・自分にどのような変化をもたらすのか?」ということを“考える癖”を付ける必要がある。まずは「1つ眼」を今後のMR活動の出発点にしてほしい。
「日本医療の4大特徴」((1)フリーアクセス、(2)国民皆保険制度、(3)自由開業医制度、(4)診療報酬制度)は、経済成長が大前提となっている。しかし、過去5年間でGDPは1.5%程度しか成長していない。そこで取られる医療費抑制策は、(1)と(4)のモラル・ハザードを抑制することである。
<モラル・ハザードの抑制方法>◆医師サイド
自己負担率を引き上げるよりも、出来高から定額払いへ支払方式を変更した場合の方が医師のモラル・ハザード(医師誘発需要)は抑制される。
◆患者サイド
自己負担増がモラル・ハザードを抑制する。
資料:(財)医療経済研究機構の報告書「経済と社会保障に関する研究」より
良く言われることだが、出来高の一般病床から定額の療養病床に転換すると、薬の使用量は1/3、注射は1/10になると言われている。2003年の4月から特定機能病院等に疾病別の定額払いが導入されたが、薬剤も包括範囲に含まれた。先発メーカーとしては考えたくもない話題だろうが、ある特定機能病院に勤務する薬剤師が「うちの病院でも4月から2点(後発医薬品を処方せんに含めることによって得られる点数格差)を取りに行くことに決まりました」と述べているように、大病院でも経営のためには、後発品を使わざるを得ないという考え方が広がっている。
高薬価はメリットからデメリットに変わった。つまり、高薬価品を使うメリットをロジカルに説明することができない薬剤とMRは、市場から消えることになる。
(“コンサナリスト”川越満)